臍(ほぞ)を狙え

Dame ramen y dime tonto.

日記#131 「あること」って 2020/11/14

こんばんは。
今日は高校時代の友人と涙の再会を果たしました。高校時代は冴えないキャラでいつも教室の隅で泣いていたような彼ですが、現在東京でかなりブイブイ言わせているようです。がっしりとした体つきになり、ええ声でいわゆる意識の高い話を自信満々に話す姿は、高校時代をよく知る私には全く想像できないものでした。

東京は人を変えるというからな、とも思いましたが、この変化は少し異常です。私は勇気を出して尋ねることにしました。

「ずいぶん変わったみたいだけれど、何かあったの?」

友人は待ってました、とばかりにニヤリと笑うと私の両肩に手をかけました。そしてこのような事を朗々と語り始めたのです。



「よくぞ尋ねてくれたな、友よ。私の変化に気づいてくれて本当に嬉しい気持ちでいっぱいだ。これから私が君に話すことは、すこしビックリするような、もしくは信じがたいような話かもしれない。でも落ち着いて最後まで聞いてほしい。どうか私を信じてほしい。我々は友人なのだから。

そして絶対に何があっても他言してはいけない。これは私達二人だけの秘密だから。いいね?」

そこまで言って友人は声を落としました。

「私が絶対的な変化したのはあることを始めたからだ。ここで言う変化とは枚
挙にはいとまがないが、まあ今の私を見てもらうのが一番だろう。自信、年収、幸福指数、これら登り上がること鰻のごとく。体重、不安、憂鬱、消え散ること桜の如し。それでいて依存性もまったく確認されていないし、あってもお酒やたばこなどの一般嗜好品よりも低い数値であることは確実だ。そしてなにより、これは完全に合法なんだ。現行の法令では検挙することはできないし過去に逮捕例もない。これは警視庁に努める確かな情報筋から聞いたことだ。日本最高学府であるところの東京大学法学部を志望した経験も持つ私の友人もかなり自信をもって安全であると言い切っている。

ただし、いつ警察の手が入り違法化するかわからないので、とにかく早めにやることをおすすめする。

ここまで聞いて君も「あること」が一体何なのか、気になっていることだろう。ないとは言わせないぞ。身体的精神的な満足は実に根源的なものだからな。

今からその手順を説明する。必要であればメモを取ってもかまわない。

その1。君は施設へ行って2000円を支払う。この施設は通常雑居ビルにひっそりと入っているので最初は見つけるのに苦労するかもしれない。が、じきにその見分け方を学ぶことだろう。

その2。君は服を脱いで白装束に着替える。ここに大きな意味はないが、こうしないと次へ進めない。セーブポイントのようなものと思ってもらえれば良い。

その3。君はガラッと戸を開ける。そこに広がる靄の中では裸の男たちが15人、君を待っている。正確に言えば、待っていない。皆ただそこに座っているだけで誰も君を知らない。でも一瞬、30の目が君をギロッと見つめるので、そのように感じることがある。

その4。君はその男たちをかき分け、木製の椅子へ腰を下ろす。呼吸を整えながら全身で熱を感じることができれば準備オーケーだ。嫌になるまでそこへ座っていよう。

その5。嫌になった君は立ち上がり外へ出る。そこには冷水を湛えた大きな槽が君を待っている。正確には、待っていない。槽に意思などない。しかしあまりにも、ちょうど君の目の前にあるのでそう思うことが多くあるだろう。

その6。レジ横のフランクフルトとよろしく芯までチンチンに熱された君は冷水をかぶり、水槽へ頭からダイブする。余談だが、人類の目玉が頭部に付いているのはここに由来すると考えられている。熱に弱い眼球は少しでも早く水へ浸かるべく身体の上部へ移動したと思われる。

その7。君は水槽で息を殺す。インパラをこっそりとつけるライオンのごとく手足に細心の注意を払い水の対流を感じろ。もちろん完璧なブレスコントロールも忘れない。しばらくすれば君は自分の芯に液体窒素を流し込まれたような感覚を覚えることだろう。

その8。君は穴という穴から白い息を吐き槽からでる。そこには全身を伸ばしてリラックスするのにお誂向きのチェアが、君を、、、待っている。これは間違いない。たしかにチェアは意思を持って君を待ち望んでいる。君はそこへ身体を委ね、意識を異次元へ飛ばす。

その9。君は以上のことを任意回繰り返す。回数を追うごとにその効果は上昇しある一点を超えるとこちらの世界に帰ってこー」

「ちょっと、ちょっと待ってよ!」

暫くあっけにとられていた私はようやく言葉を挟むことに成功した。

「そのあることって、サ

(後半へ続く)



2020年11月14日