臍(ほぞ)を狙え

Dame ramen y dime tonto.

日記#108 成田のうどん 2020/10/21

ビザ更新しようかとも思っていたけど、やっぱり帰ろうかな。うどん食べたいし。成田空港第3ターミナルのうどん、あれ美味しいよね。なんならあそこだけで良い。成田で3時間の乗り継ぎ中にうどんとちゃんぽんを食って帰ってくるツアーがあったら絶対参加する。

第3ターミナルは、あの殺伐とした感じがめちゃめちゃ良いんだよね。コンクリート打ちっぱなしのモノトーン建築はディストピア観があって興奮する。

 冥王星行き162便はすでにチェックインを終了している。「おばちゃん、かけうどん一つ。」食券を棚の奥へすーっと滑らせながら、俺は周りを見渡して空いている席を探した。第3ターミナルの食堂は同じような顔をしたやつらで溢れかえっている。これから宇宙旅行だってのに、しけた面してる奴らはみんな冥王星への出稼ぎ労働者だ。カウンター席でフレッシュネス・バーガーにかぶりついているあいつはきっと初派遣だろう。昔の俺と全く同じことをしてるな。思わずに「ふふっ」と声に出して笑ってしまった。それが聞こえたのか、その目つきの鋭い若者はバーガーを頬張りながらこちらに目をやった。悪いことをしたな。俺はどんぶりに熱い出汁を注ぐおばちゃんの方へ向き直した。若い奴らはまだ知らないだろうが、フレッシュネス・バーガーは冥王星で現地展開している。そいつを地球最後の食事に選ぶなんて。「ふふっ、若いな。」そう呟いて俺はまた笑った。5年間の長旅前に成田で食べるべきものはただ一つ。「はい、お待ち!かけうどんね。」

 

第一話 テイクオフ

 

搭乗まで5分ってとこか。俺は懐中をポッケにしまいながら、トレーを返却棚に投げる。そしてふと、後ろに異様な気配を感じて振り返った。

「さっき、俺のこと見てたっすよね?」

鋭い目の若者は「あの〜」も「すみません」もなしにそういった。身長は俺と同じくらい。齢は十八くらいだろうか。近くで見るとずいぶん幼く見える。そしてもう一つ、遠くから気づかなかったことが...

「いや、若い頃の俺を見てるようでな。気を悪くしたなら謝る。」
「とぼけないでくださいよ。」
「なんのことだ?」
「あなたも、なんでしょう。」若者はそう言って、着ていたシャツの袖をまくった。「これが何か、あなたは知っていますよね。」手首に痛々しく刻まれたダブルオクタゴンには、確かに見覚えがあった。なるほど、こんなところで出会ってしまうとは。俺としたことがかけうどんに興奮しすぎていたようだ。まさか、同じ成田発にオクタゴナール戦士がいるなんて思いもしなかった。若者はじっと黙って俺の目を見ている。こいつはどこまで知っているんだ?俺は何を言うべきか考えを巡らせていた。

「冥王星行き162便はただいまよりお客様を機内へとご案内いたします。」