臍(ほぞ)を狙え

Dame ramen y dime tonto.

第二章 -失意-

2日目(フランクフルト-ミュンスター)

 

第一章 -時差惚け-

今日は陽もまだ上らぬうちから目が冴えて寝床を抜け出した。

用を足して床へ戻るが、何か気がそがれて寝付けない。

連れはそれは時差惚けだ、と云う。

私はその言葉にむっとがり、惚けているのは君の方じあないかと強く云ひ返した。

連れは、は?と云って僕の頬を力一杯殴った。

 

第二章 -失意-

 

朝飯を済ませた我々は、徒歩にて大聖堂へ向かう。ここはかの神聖ローマ帝国の戴冠式の場として名を馳せ、欧州史を愛する高校の朋友が見れば涙に咽ぶ、まさに待望の訪問であった。

大聖堂の前に立ち壁に手をかける。

あゝ、感嘆の声が漏れる。

其の荘厳な佇まいは我が故郷にそびえる黒田城の天守を思わせ、漆喰から滲む歴史は栄華を極め人類史の一項を刻んだ神聖ローマの吐息そのものである。高まる胸の鼓動を抑えいよいよ入場の時が迫る。

其の時であった。ふとひとひらの紙切れに目が留まる。

礼拝のため午前十一時までの観光客の立ち入りを禁ず

十一時十分の汽車に乗る予定の我々は涙に沈み、失意の中駅へと向かったのであった。

 

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失意



第二章 -暫くして-

車窓を眺めていた連れが私が暇を盗んでは物を書いてるのを見つけて、何をしているのか、と云つた。

「あふぃりえいと」だ。

「あふるいえいど」?

私が「あふぃりえいと」というのはインターネットユーザーが私のWebページのアドをクリックするたびにアマゾンジャパンから金が送られてくる仕組みのことだ。

ユーザエクスペリエンスを最適化し収益を最大化するためにコンピュータサイエンスのクラスでHTMLJavascriptCSSも勉強したのだと説くと、豪快な嘲笑を私にくれてやってから銭のための物書きなんぞ見っともない、やめてしまえと云った。

私はこれは金のためでは決してない。これはただの自己承認欲求だと。

連れは不服そうな顔で私を見つめていたがそれ以上は聞いてくることはなかった。

その日の日暮れかたには目的の街に着いたので私たちはいい加減に宿を決め、旅の疲れを癒すことにした。

ミュンスターの夜は更ける。

 

(第二章に於ける文体の硬さは偏に神聖ローマの崇高な歴史が筆者にそうさせているのに他ならない。)